パラ学の講師インタビュー第2回は、「まこっちゃん」こと馬島誠さん。
「車いすボールチャレンジ」開始当初から講師を努めていただいている1人です。
加藤さんと同じく「講師業」として全国を駆け回る馬島さんに「車いすボールチャレンジ」の魅力を語っていただきました。
愛称「まこっちゃん」、1971年生まれ、上伊那郡辰野町出身
アイススレッジホッケー(現:パラアイスホッケー)で2006年トリノ、2010年バンクーバー大会にパラリンピックに出場し、バンクーバーでは銀メダルを獲得
2016年からはパラパワーリフティングに取り組み、全日本選手権優勝2回
デジタルガジェット好きで自宅には自腹で組んだ配信セットも
(馬島さん)
学校の先生からよく感想でいただくのは、後半に行う講演部分について「全員がこんなに長時間、集中して話を聞いていて驚いた」というものです。これは、前半にゲームを楽しみ、後半に講演としているプログラムの構成による効果だと感じています。
体育館に入場するときにカッコいい競技用車いすがズラッと並べられていてるのを見て、子どもたちは始まる前から目を輝かせます。
初めの挨拶をしたら自己紹介もそこそこに、ゲームを始めてワイワイやって、子どもたちと仲良くなっている状態なので、私も子どもたちが最初から最後まで真剣に聞いてくれていると感じますし、質問もたくさん出ます。
車いすボールチャレンジは1回の授業の人数の上限を設け、全員が同じ回数車いすに乗れるようにしているのも教育現場としては大事な点ではないでしょうか。
共生社会のプログラムなので全員が体験できることは当たり前ではあるのですが、限られた時間の中で回るように、細かい台本とタイムスケジュールのマスターがあり、それを毎回、学校の状況や人数に合わせてカスタマイズしています。
ほとんどの子どもが競技用車いすに乗るのも、車いすユーザーと話をするのも初めてになるので、この体験は印象に残ります。
手前味噌ですが、こんな素晴らしいクオリティの授業を無料でやっているのですから、やらない手はないと思います。
(馬島さん)
「他喜力」という言葉は西田文郎さんというメンタルトレーニング指導者の言葉で、私がパラアイスホッケーで結果が出ずに悩んでいた時期に友人から教えてもらいました。
「目標に到達するためには自らの努力はもちろん必要だが、それ以上に周囲や仲間を笑顔にすることを第一に考えなさい」という意味で、競技に対する考え方が変わり、結果的にパラリンピックでメダルを取ることに繋がる大きな転機でした。
クラブ活動や部活をする中でモチベーションを維持するのに苦労する人がたくさんいますが、そんな子どもたちに少しでも良いキッカケになれば良いと思います。
約10年前に初めて行った講演からこの言葉を使っている中で、東京パラリンピックが近づくに連れて「スポーツと共生社会」をテーマにした講演が増えました。
「他喜力」は自分が競技を頑張れたキッカケとして話しており、共生社会のテーマには別の構成を考えたことがあったのですが、最終的には「他喜力」こそ共生社会のキーワードという想いに至りました。
車いすボールチャレンジでも「相手の立場にたって考える」ことを伝えているため、講演での「他喜力」と親和性があります。子どもたちには具体的な考え方として、「親や友人の好きな人が喜ぶ顔を思い浮かべて」と話をしています。
講演の中では無理に「共生社会」という言葉や考え方は入れていませんが、「他喜力」が高い子ども達が増えれば、自然と共生社会の実現へ近づくと思っています。

大きな声出しで盛り上げます
(馬島さん)
当初使っていたスライドは文字がたくさんあり見づらいし、聴衆もスライドの内容に意識がいってしまい話の中身が入ってこない状態でした。
5年ほど前にプレゼンテーションの名手として有名な三輪開人さんの講義を受けたのですが、そこで教わったのが「1スライドには0.5メーセージ」という考え方でした。
この教えを基に大幅に作り変えて、スライドに記載する言葉を厳選したところ、子どもたちの反応や集中力がすごく良くなりました。自分も子どもたちの反応をより意識できるようになり、雰囲気やリアクションに応じて臨機応変に話し方を変えています。
あと、これは個人的な趣味の延長の話ですが、プロジェクターやスピーカーも少し良いものを自前で揃えています。画面が見づらかったり音が聞こえなかったり、喋り以外の部分で満足度が下がるのはもったいないので。
車いすボールチャレンジの体験部分も既に完成された形ではありますが、こどもへの声がけの仕方等、より楽しんでもらえるような改善を続けています。今はゲームしている最中にBGMをかけた方が盛り上がると考えて事務局に提案しています。
(馬島さん)
共生社会って大事な考えと思っていても言葉の概念が抽象的なこともあり、先生方が子どもたちに伝えようと思っても難しい部分が多いと思います。
その点、パラ学の車いすボールチャレンジは子どもたちが共生社会を考える「第一歩」に最適化されたプログラムになっています。
「相手の立場になって考える」「できないをできるに変える」、この心構えさえ分かっていれば、子どもたちの行動も自然と共生社会の方向に繋がっていくと思います。
授業を受けていただいたクラスの先生には、その後も継続的に共生社会の視点を持って子どもたちを導いてくれると、このパラ学の効果が何倍にもなります。
これからもたくさんの学校に行けることを楽しみにしています。

最後にはバンクーバー大会の銀メダルを持ってもらってお別れしています