~パラ学の現場から~講師特集④中沢 医

講師インタビューの最終回はブラインドフットボールチャレンジの講師、中沢さんです。 

ブラインドフットボールチャレンジは車いすボールチャレンジに続くパラ学2つ目のプログラムとして2024年度から実施しています。

視えないことを言い訳にせず何事も前向きに取り組む中沢さんの想いを伺いました。 

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坂城町出身。中学生の時に全盲に。 

学生時代からブラインドフットボールに取り組み、2009年に長野県唯一のチーム「F.C長野RAINBOW」を創設。チームは現在「松本山雅B.F.C」に引き継がれ、中沢さんは代表を務める。 

スポーツ以外にもマンドリンや華道など、幅広い趣味を持つ。


中沢さんはプログラムのテーマを「コミュニケーション」としています。全盲の中沢さんが考えるコミュニケーションはどのようなものでしょうか。  

(中沢さん)

7〜8年前から体験授業を本格的に行うようになり、個人的な繋がりが広がって今では年間50件以上実施しています。当初から体験内でキーメッセージとして伝えているのが「コミュニケーションの重要性」です。 

視覚障がい者は「言葉」と「音」を頼りに生活しますが、「言葉」だけで物事を正確伝えるということは意外と難しいものです。 

授業のアイスブレイクとして準備体操を行う際に、2人1組になって片方がアイマスクをし、もう1人が私の動作を視えていないペアに伝えてやってもらう、というワークをやりますが、つい「こうやって」と言ってしまったり、左右や前後、回数を伝えていなかったり、となります。 

これは言語が少ない子どもだから、という訳ではなく、先生の方がよくやってしまいます。大人の方が「こう言えば分かるだろう」という先入観が多いのが理由です。 

子どもたちにはコミュニケーションが成立する要素を①話す②聞く③相手の気持ちを思いやる、という3つのキーワードで説明しています。大人向けに詳しくするなら、コミュニケーションは「相手が理解して成立する」、コミュニケーションは「双方向」であるということです。 

晴眼者にとっては言葉だけがコミュニケーションではないですが、あえて言葉に限定する体験をすることによって、コミュニケーションの本質が分かってもらえると思っています。 

様々なフィールドで活躍する中沢さんはコミュニケーションこそ共生社会づくりの重要な要素だと言います。 

(中沢さん)

今世の中に存在している障がい者の生きづらさは、コミュニケーション不足に起因するものがほとんどではないでしょうか。 

配慮する側が「こうすればいいだろう」と当事者の意見も聞かずに決めるのはもちろん問題ですが、配慮を受ける側も「当然こうしてくれるだろう」という姿勢も分断を生みます。 

共生社会のために必要な重要な考え方の1つは「妥協点を見つけること」です。その場合、「双方向」のコミュニケーションなしに妥協点を見出すことはできませんが、今の日本社会は配慮する側の一方通行が多いと感じています。 

私のような視覚障がい者は、日常生活で困ったときに黙っていては誰も助けてくれないので、特に「コミュニケーションは双方向である」という点は重要と感じています。 

SNSの発達もあり、当然のように日本や世界の様々な人とやり取りできるようになりましたが、その分、双方向のコミュニケーションを取ることは昔より難しくなっているのではないでしょうか。 

本質的なコミュニケーション力は、対面であろうとオンライン上であろうと発揮されるものであり、子どもたちがこれから社会に出ていくために必須のスキルと考えています。 

コミュニケーション力が高まった世の中は、障がいに限らず国籍や文化の違いも自然に理解し合えると思います。 

中沢さんはコミュニケーションを理解するために、ブラインドフットボールの体験が非常に有効だと言います。 

(中沢さん) 

ブラインドフットボールは、アイマスクをして全く視界の無いフィールドプレーヤーに対し、見えているゴールキーパー、監督、コーラー(相手ゴール裏から指示を出す人)が指示出しをします。 

球技のブラインドスポーツでは、インプレー中は音を出してはいけないという競技が多い中で、ブラインドフットボールは常に声がけが行われており、リアルタイムでコミュニケーションを行っています。 

ブラインドフットボールチャレンジでは、アイマスクをする側と指示する側の両方の役割を体験することによって、「相手の気持ちを思いやる」ことの大切さを実感してもらえます。 

「相手の気持ちを思いやる」という点において、経験の有無は実際に行動に移せるかどうかの大きな差になります。 

いざ実際に街なかで白状を持って困ってそうな人を見かけても、視覚障がいのことを知らなければ声がけには非常に勇気がいると思います。 

いわゆる福祉授業的なものでは、日常生活のケースを紹介しながら「こうしないといけない」という型を教えることがほとんどです。 

こういった学習ももちろん大事なのですが、これだけでは「一方的な」コミュニケーションしかできません。個人が必要としていることはその時々で変わるものです。 

また、「こうしないといけない」という教え方は、「間違えたらどうしよう」というプレッシャーにも繋がり、そうなってしまうと、本番で行動できる人を減らしてしまうことにもなります。 

スポーツを通じて一緒に楽しむ経験をすることで、障がいに対する必要以上なネガティブな印象を持つことがなくなります。

ブラインドフットボールチャレンジでは、対応方法を子ども達同士で考えてもらうようにしています。ワークを進めるうちに自然と助ける側と助けてもらう側の双方向のコミュニケーションが取れるようになり、正解は「コミュニケーションを通じて得るもの」と実感してもらえます。 

音のしないボールでの華麗なドリブルを披露し会場を沸かせる中沢さん

 

講演活動を「世の中へのお返し」という中沢さんの理想の共生社会像とは。 

(中沢さん)

 自分の気持ちを考えて行動してくれた、ということはとても嬉しいことです。「テイク」を受けると「ギブ」をしたくなります。 

私はこれまで沢山の人から「テイク」を受け、視力を失ってからも自分の人生を楽しくやってこれました。今こうやって体験授業を行っているのは、自分なりの社会に対する「ギブ」、お返しだと思っています。 

相手の気持ちを考えたコミュニケーションによってギブアンドテイクが沢山ある社会、これが私の目指す共生社会です。 

たくさんの子どもたちにブラインドフットボールを体験してもらうために、これからも頑張っていきたいと思います。


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